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八束

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2011.03.19(Sat) 


で、予告した通り小話でも。
カキツバタと羽化、本編開始より数年前のお話です。ほのぼの馴れ初め。



陽射しが眩しかった。
カキツバタの修室に面した庭は一面、白い朝日に染め上げられていた。まだかたい花の蕾や葉を露がすべり、方々から小鳥のさえずりが響く。そこはどこも春の匂いに満ちて、ふと吸いこんだ空気はかすかに甘く、そして瑞々しかった。
礼拝を終えて朝食までの僅かな間、こうして窓を開けて外を眺めることがカキツバタの日課だった。
“聖女”という立場は厄介で息苦しいものだが、その苦労もこの瞬間は紛れた。窓からの景色は美しく、植物はつねに泰然としている。ささくれた彼女の心も、少しだけ慰められるような気がしたのだ。

「……あら」

ふと窓際の花瓶をみやって、カキツバタは目を細める。昨日まであった花がそこにはなく、色硝子でつくられた瓶の中には透明な水が満たされているだけだ。
そういえば、花は萎れていたかもしれない。誰かが変えるつもりなのかと思った瞬間、ふいにカキツバタは誰かがやってくる気配を感じた。
丁重なノックに答えると、姿を現したのは少年だった。癖のつよい暗褐色の髪に、独特の色合いをした金茶の目――異国らしい彫りの深い顔立ちに、カキツバタは見覚えがあった。

「羽化、でしたわね。どういたしまして?」

彼はカキツバタが今年の冬に偶然拾った、移民の少年だった。
わざと素っ気無いふうに言ったカキツバタに、羽化は何を思ったのだろうか。彼はわずかに瞳を細めると、ふいに隠していた手元を前へと出した。

「……これ、を」

浅黒い手に握られたのは、一輪の花。ようやくほころびかけた、淡い紫色の薔薇だった。

きれいに棘をとった薔薇を、羽化は緩慢な動作でカキツバタに手渡す。それは朝露をきらりと光らせて、しっとりとした香りを漂わせた。花にはまだ、彼のぬくもりが残っている。
それを僅かな間カキツバタは見下ろして、そして顔をあげた。羽化の顔を見据えると、彼女はふわりと花がほころぶように笑う。

「ありがたくいただきますわ。私の色と同じですのね」
「ん……似ている、と。思った、から」

ヴァリッツァの言葉に不慣れなのか、しどろもどろに羽化は話した。そして浮かんだぎこちない笑みに、なんだかカキツバタは心が柔らかくなるのを感じた。



――そうして羽化が彼女の傍にいるようになるまで、あと少し。
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